研究内容

  
 近年、超伝導、金属−絶縁体転移、重い電子状態など、低温における電子系の特異な振る舞いが固体物性研究における興味の対象となってきていまする。これらの解明と応用は将来への科学技術の発展の基礎にもつながるものと考えられます。

本研究グループでは、低温においてその特性が顕著に現れる、超伝導体(酸化物高温超伝導体や金属超伝導体)強相関磁性体(マンガン酸化物、希土類化合物、強磁性グラニュラー膜)を対象とした物性研究を行っています。
これらの物質の示す特異な物理現象を解明することに加え、その性質を応用しながら通常では存在し得ないような人工的変調をもった物質を開発し、新しい物理現象や基底状態を探索することが最終目標です。

この目標を達成するため、薄膜、多層膜、単結晶およびそれをのデバイス化した材料といった様々な形態の試料を用い、低温(数10mK - 300K)・磁場中(0 - 14T)での特性を調べています。また、極低温領域で働く新しい実験装置の開発も行っています。


以下のようなテーマが進行中です。

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(1)電界誘起超伝導の超伝導現象解明とスピン状態の制御

 電気二重層トランジスタ構造を用いて、電界効果のみで本来なら絶縁体であるSrTiO3やKTaO3を超伝導に変換することに世界で初めて成功しました。この超伝導の特性解明に加え、試料にかかる強い電場を利用することにより(スピン−軌道相互作用を用いて)系のスピン状態を変調し、新しい超伝導状態を実現させることにトライしています。

 


電界効果による表面電荷蓄積によって絶縁体から金属になったSrTiO3の超伝導転移

 

(2)電気化学的手法を用いた銅酸化物高温超伝導体への両極性キャリアドープ

 銅酸化物高温超伝導体はモット絶縁体と言われる電気を流さない物質にホール(p型キャリア)か電子(n型キャリア)を導入することで実現されますが、両方のキャリアドープで超伝導になる物質はまだ見つかっていません。電気化学反応という低温環境下での物質制御方法を用いて、p型とn型の両方において超伝導になる銅酸化物を探索し、超伝導機構解明の手掛かりをつかもうとしています。



YBa2Cu3Oyの室温電気抵抗のキャリア数依存性(p型超伝導体からn型金属へと変換)

 

(3)高温超伝導体の渦糸状態の研究

 銅酸化物、二ホウ化マグネシウム、鉄砒素系化合物といった高温超伝導体では、大きな熱ゆらぎ効果やマルチバンド(複数の超伝導ギャップ)の効果により、従来型の超伝導体には顕著にされなかった渦糸状態(磁場中超伝導状態)が観測されます。磁気トルクや磁化、磁気抵抗という測定手段で、その特性解明を行っています。

 


AFM用カンチレバー(挿入図)を用いて測定した、鉄砒素系超伝導体の磁気トルクの磁場方向依存性

 

(4)超伝導/強磁性接合系での超伝導特性

 強磁性体と超伝導体をトンネル接合した系では、超伝導体中の電子スピン密度がアンバランスとなった非平衡超伝導状態が起こります。この特殊な状態を酸化物磁性体と高温超伝導体の接合膜により実現し、その特性を調べています。

 


スパッタ法により作成した超伝導/強磁性トンネル接合

 

(5)希土類化合物の低温物性の研究

 (Ce,La)B6等にみられる多重極子秩序と近藤効果の共存状態に対し、La希釈といった手法によってできる新しい磁気相の研究を、極低温下での比熱、超音波、電気伝導の測定により行っています。

 


Ce0.5La0.5B6単結晶において発見された極低温磁気相図

 

(6)極低温磁化測定装置の開発

 3He冷凍機、ファラデー天秤、磁場勾配型超伝導磁石を組み合わせた磁化測定装置の開発を行っています。これにより300mKまでの温度域での超伝導体、磁性体の磁化測定がを行えるようになります。

 


ヘリウム3クライオスタットの作製

 

(7)様々な超伝導薄膜の超伝導特性

 高温超伝導体や従来型超伝導体、さらに近年、発見されたMgB2超伝導体の薄膜化を行い、 その特性調べています。特に系の二次元化によって現れるサイズ効果(超伝導転移温度や臨界磁場の変化)を調べます。

 

RFスパッタ法によるMgB2の作成